東京地方裁判所 昭和34年(ワ)4358号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕破産会社大同電機産業株式会社は被告に対し、代金は毎月末日払の約定で電気機具を売り渡しその代金は合計九六万七八六一円となつた。被告は内金一八万二七五〇円を支払つたのみで残代金七八万五一一一円の支払いをしないので、原告は右破産会社の破産管財人として右残代金の支払いを求めると主張した。
被告は右請求原因事実を認めたが、抗弁として、被告は当時破産会社の代表取締役であつたのに本件商品の売買について破産会社の取締役会の承認をえていないから商法第二六五条に違反し、無効であると抗弁した。
判決は本件取引が商法第二六五条に違反するものであることを認定したが、同条に違反する取引も亦有効であるとしてつぎのとおり説明している。曰く。
「右法条に違反した取引の効力について検討する。商法第二六五条に違反する取引の効力については、これを絶対的に無効とする説、あるいは事後に取締役会の承認ある場合には有効とする説、常に有効とする説などいろいろの解釈があるけれども、当裁判所は右行為もまた有効なるものと解する。本来商法はすべて株式会社の業務執行は取締役会これを決し、代表取締役これを執行するものとしているから、取締役がたまたま会社とする取引においても会社は取引上一個の主体として他の主体たる取締役と相対するのであつて、本来取締役会の決議を要すべきことに変りはないはずであるが、取締役はその職としては会社の内部にあるものであるから、会社との取引によつて利益相反の立場に立つこととなるといきおい会社に不利益を及ぼすおそれがあるので、とくにその取引については直接法律において取締役会の承認を要すべきものと定め、定款その他による安易な妥協を排したものと解せられる。従つて右商法第二六五条は同法第二六四条が取締役の会社との競業を制約するのと同様、取締役の会社に対する忠実義務に由来するものであり、会社と取引する取締役に所定の手続を経べき業務を命じたものというべきである。取締役がこの義務に違反し、あえて取締役会の承認なく取引を行なつたとしても、事はあくまで内部的規律に違反したに過ぎず、会社が取引上の主体としてした右取引の効力に影響あるべき筋合のものではない。もしこれによつて会社が損害をこうむつたときは、当該取締役の責任を追求し、その損害を賠償せしめることによつて会社の保護は達せられるのであつて、右取引を法律上当然に無効としなければならない理由はない。同条後段は取締役に当然の代表権が失われた現行商法のもとにおいては、右解釈をさまたげる決定的障害となるものではない。これを実質的にみても、右取引を常に無効とすれば、会社はよし取締役の義務違反によるにせよ、自ら自己の機関である取締役会の承認のないことを知りながらあえて取引を行ない、そのことのためにかえつて右取引の拘束を免れる結果となるのであつて、不公平であり、またこの取引にもとずいて形成された第三者の法律関係にも影響を及ぼし、ひいて取引の安全を害するにいたるのであつて、不当である。
しからば、右売買は有効であつて、被告はその契約の拘束を免れ得るものでなく、被告は原告に対して破産会社に対する商品未払残債務金七八万九八五〇円を支払う義務がある。」